Label: Edition Omega Point - OPX013
米Columbiaの一部門だったOdysseyレーベルからコンピレーション・アルバムのLPでリリースされた'Extended Voices'には、Pauline Oliveros、Morton Feldman、John Cage、Alvin Lucierら実験音楽界の重要作家が「声を拡張した」作品を提供した [1]。今回はこれに収録されていた一柳慧作曲の、電子音と変調された声による《エクステンデッド・ヴォイセス》のテープパートを入手したため、バリトン歌手・松平敬に依頼してオリジナルとは違う方法でのリアリゼーションを行った。これを中心に、松平の選曲による実験的な作品と自身のオリジナル作品を加え、オリジナルLPへのオマージュという意味を込めて「拡張された声の作品集」として構成した。
tr.1_一柳慧《Extended Voices》(新バージョン#1)
tr.5_一柳慧《Extended Voices》(新バージョン#2)
本作品のオリジナルのスコアは所在不明であるが、LPの音源や、Alvin Lucierによるライナーノートに書かれた情報から、作曲者の意図した演奏の「復元」を試みたのが本録音である。
ライナーノートによると、オリジナル・スコアには、様々なカーブのグリッサンドや持続音がスコアに記載されていたことが分かるので、乱数によって36種類のグリッサンドを決定し、それを格子状に配置した演奏用のスコアを作成した(fig.1参照)。これを縦横、斜めなど自由な順序で演奏し、いくつかのイベントを休符として解釈することで、音の密度をコントロールした。
ライナーノートには、補助楽器や、電子変調によって声の音域、音色などを拡張させる(=extend)ことも書かれているので、LP盤の演奏の雰囲気を参考に、しかし私ならではの表現を試行錯誤した。'新バージョン #1'は、強めの電子変調を施した声を2声部重ねたもの、'新バージョン #2'はピッチ変調のみを使用し、生の声に近い印象を保持したものを3声部重ねたものである。
tr.2_ジョン・ケージ《龍安寺》
様々な楽器のための版が存在するこの連作中、唯一の声楽ヴァージョンである。長方形の枠の中に曲線が描かれたスコアは、見た目には龍安寺の石庭を思わせるが、声楽版においてはこの図形が声明のように音化される。(スコアに明記はされていないが)女声の低声による演奏を想定して作曲されたこの版は、男声でそのまま演奏するとテノールの音域になってしまうため、この声明風のキャラクターは損なわれてしまう。この雰囲気を保つため、本演奏では(通常の声楽曲でも一般的に行われているように)全体をそのまま1オクターヴ下げ、バスの音域で演奏した。
tr.3_松平敬《白い少女》
本作品のタイトルは、春山行夫が1929年に発表した詩集『ALBUM』の一編からの引用。この詩は「白い少女」という言葉を6回×14行繰りかえすだけ、という特異な構成を持ち、視覚的なインパクトも強烈だ。「白い少女」と語った音源のループにディレイをかけるだけという、本作品のミニマムな仕掛けは、この詩の反復構造を音楽化したものである。そこに、もう一つの単純な仕掛けを掛け合わせることによって、その反復構造が無化されてゆく。
tr.4_松井茂《★》
《★》とは、50首からなる連作短歌のタイトルである。すべての短歌は、あるアルゴリズムに従い、五七五七七という短歌のフォーマットに「一」「二」「三」という3つの漢数字が当てはめられている。本リアリゼーションでは、この連作短歌を低(一)、中(二)、高(三)という3つのピッチから構成された「楽譜」であると解釈して、打楽器で演奏した。短歌によって音の定位が左、中央、右と変化するが、こちらは複数の短歌の構造から導き出されている。
松平敬 プロフィール
愛媛県生。東京藝術大学卒業、同大学院修了。2007年の《シュピラール》の演奏に対してシュトックハウゼン賞を獲得する。クセナキスなど全曲前衛作品ばかりによるリサイタル、無伴奏独唱曲または電子音楽との共演のみによるコンサートなど、独創的な企画が話題を呼んでいる。2012年のサントリー芸術財団サマーフェスティバルでのクセナキス《オレステイア》公演での壮絶な歌唱は、新聞各紙などから高い評価を得た。聖徳大学、文教大学講師。低音デュオおよび双子座三重奏団のメンバー。
>>SAMPLE<<
>>SAMPLE<<
>>SAMPLE<<
>>SAMPLE<<